Ride Vol.03-2 ~ Konsei Pass(金精峠):2日目 ~
【旅程】
・ルート
宇都宮→日光→中禅寺湖→金精峠→沼田→高崎
・予算
1万円以内(全旅費)
・人数
1人
2日目・・・・
日光で目覚めるのは、小学校の修学旅行以来。
あのときは昭和。
今は令和。
平成をすっ飛ばしてしまいました。
昨夜、躰がピリピリするほどの温泉に入ったせいか、道中の疲れが取れた気がします。
そして今日は金精峠越え。
まさか、あの道を自転車で走ることになるとは。。。。
昨夜は真っ暗闇だった中禅寺湖も、朝出発するときは晴天に恵まれ見晴らしも素敵☆
ホテルのエントランスも高級感があって、ちょっとビックリしました。
これで1泊2,900円弱なのだから、安いものです。
(ドミですけれど)
ここから金精峠へ向けて走り始めます。
湖畔を颯爽と走り抜け、適度なアップダウンも苦になりません。
「これならイケる!」
私は単純にそう思い込み、これから味わう地獄のクライムヒルは想像だにもしておりませんでした。
湖畔を過ぎたあたりから徐々に坂道となってゆき、竜頭の滝近辺で、、、、
すでに私のチャリは手押し車となりトホダーとなっておりました(-_-;)
「ったく、もう疲れたわ、引き返して帰るかな。。。。それとも、バスに乗ってバスダーにしちまうか。バスで行けるところまで行っちまうのも手だろ。誰にも言わなきゃチャリで走破したとふかしこいてもわかりゃしないし。。。」
チャリを手押しながら頭の中で葛藤する自分。
息はゼイゼイ、脚はキュンキュン。
「いや、俺は負けん。走ろうが歩こうが、峠は越えてやる」
そう思いながら、チャリに乗っては走り、走り疲れては徒歩を、繰り返し繰り返し。。。
途中に現れたバス停を見ると、あと数分で湯元行きのバスが到着する予定でした。
チャリを分解している時間はありません。
※分解して輪行しないとバスに乗れない。まあ、誰も乗っていないだろうから、運転手に掛け合えば大丈夫かもしれませんが。。。という浅はかな考え。
そうこうしているうちに、男体山が見えてきました。
青天のせいか、良い見晴らしです。
山に見守られているという想いが、私のモチベーションを高めてくれます。
「登山に比べれば、道も舗装されて坂も緩やかだし、楽なもんでしょ」
考え方をポジティブに。
ようやく戦場ヶ原につきました。
猿麻呂と大ムカデがタイマンはった戦場ヶ原。
「猿麻呂と大ムカデのタイマン、いったいどんな光景だったのだろう?」
遥か古代の日本に想いを馳せながら、私は空色のビアンキで走り続けます。
※ここは平坦な道なのでチャリダーできます。
東京から、たかだか100キロ程度の場所に、このような草原があるのが信じられません。
今日は平日のせいか、観光客もおらず車も少なく、唯一聞こえるのは静かな風の音だけ。
「おお、サラリーマンを忘れているぜ!」
そう想っては、サラリーマンという単語が頭に想い浮かんでいる時点でサラリーマンを思い出しているという矛盾。
なぜか戦場ヶ原で井上大輔の「めぐりあい」の旋律と歌詞が脳裏に流れます。
Yes my sweet, Yes my sweetest
I wanna get back where you were
今自分が置かれている環境とまったく異なる歌詞。
私が今抜けようとしているのは、戦場ヶ原であってア・バオア・クーではない。
でも、旋律が不思議と戦場ヶ原とマッチし、私は猿麻呂になって大ムカデをやっつけた気分になりきり、気分が高揚してきます。
戦場ヶ原を抜けると、再び登り坂。
戦場ヶ原のバス停でチャリを分解し、袋に詰めちまうか・・・
誘惑に駆られましたが、「めぐりあい」の曲に助けられました。
大ムカデをやっつけた私が、チャリで疲れたからといってバスに乗るなどみっともない。
ただ、目の前には延々と続く坂が現れ、登りきった先は右折左折しており視界には入らず、下り坂なのではないかという錯覚に囚われては、坂を上り切る直前に視界に入る坂の先が、延々と続く登り坂であるということに心が折れそうになります。
結局、クライムヒルとは、人間の儚い願望が打ち砕かれるという想いの連続なのですね。
そして、どうにか湯ノ湖の手前にある湯滝に到着。
ここで休みましたよ。
デジカメは荷物になるので持ってこなかったのですが、シャッタースピードを遅くしたら素敵な写真が撮れたかもしれません。
休んでいると、三世代からなる家族連れの方々が湯滝をゆっくり柵から覗いていました。
湯滝よりも、その方々の柔らかい雰囲気に心が癒されたかもしれません。
ここでマグオンの粉を口にぶち込み、水で一気に流し込みます。
バスも、この先にある湯元までしか走ってません。
今回、ボトルを二本持ってきていたのですが、一本目が空になってしまい、湯元で補給も考えたのですが、湯元と金精峠では道が分岐してしまうので、いったん湯元まで行ってしまうと分岐地点まで戻ってくるのに坂を上らなければならず、私はこのまま金精峠へと進むことにしました。
「バスも湯元までしか走ってないし、もうこの先は自力で行くしかないぜ」
私は、金精峠方面の道を、ただひたすらに走り…ではなく、歩きます。
空色のチャリも、理解してくれるでしょう。
写真では緩やかに見える坂も、実態はかなりの上り坂。
法定速度が40キロとなっているけれど、私の速度は時速3キロ程度。
せめてもの救いは、とてつもなく有酸素運動をしていると実感していることです。
息が「ハァハァ」していたけれど、自分の部屋でハァハァしていたら不信がられますが、外でチャリを押しながら坂を上っている最中にハァハァしているのであれば、私を見かけた人も
「キツいんだろうなぁ、あのオッサン」
と思ってくれるに違いありません。
ここからば、相当な斜度の峠道。
たった5キロの道のりで、標高が1490Mから1850Mと、約400Mも登らなければならないのです。
いろは坂ほどのヘアピンカーブはないものの、視界の遠くには、これから私が登ろうとする道が高いところに見えてきます。
峠道に差し掛かると、後ろを振り返れば先ほど通ってきた戦場ヶ原と湯ノ湖、そして男体山が一望できる絶景が見渡せました。
たまに車が通ったりしましたが、聞こえてくるのは風と樹々の騒めきのみ。
視線を前に向ければ、まだまだ登らなければならない峠道が天空まで続いていそうな錯覚になります。
突然、道のがけ下からザザザザザッという音が聞こえ、その方向を見てみると、何やら速く動く物体が見えました。
「熊か、、、かかってこいよ、こっちはついさっき猿麻呂になり切ってムカデ退治したばかりだからなあ、想像の中でだがよ!!!」
気力が闘争心になり、その実心はビクビクしていると、なんと物体の正体は鹿でした。
崖下の森の中を優雅にリズムをつけながら走る鹿の姿に、
「その力、少し分けてくれないでしょうか、お願いしますよ鹿さん」
とヘタれる自分が情けなかった。。。
帰宅して調べてみたのですが、この辺りはツキノワグマが出没するらしく、行政のHPで出没地域と日時が開示されているので、事前に調べてみるのが良いかもしれません。
優雅に森の中を舞う鹿に勇気づけられた私は、その後少しだけ休憩し、残り少ない水をチビチビ飲みながら、長い長い峠道をとうとう登り切り、金精トンネルへとたどり着きました。
ちょうど工事中のようでした。
交通整理している方に、
「日光へ戻るんだよね?」
と聞かれ、ちょっと驚き。
「まさか、、、群馬に抜けますよ。いいですよね?」
そう問い返すと、問題なく通行できるようでした。
トンネルの左側に駐車場があったので、ちょっとそこで一休み。
そしたら、、、ちょっとあり得ない標識がありました。
「ここ、バス通ってんの?!」
なんと、ここにもバスが通っているらしいのです。
どうりで、峠道を登っているときに路線バスらしきものを見かけたはずでした。
「勘弁してくれよ、てっぺんまで来ちまったから、もう下るだけじゃねえか。。。」
次回は、絶対にここまでバスで来て、下りだけを走ると心に決めた次第でした。
そして、いざトンネルへ。
と思いきや、車が数台列をなしてました。
交通規制で片側通行になっているようです。
私は、最後の車が目の前を走り抜けた後、チャリを走り出させます。
トンネルに入ると、ひんやりとして気持ち良い。
さきほどまでのクソ暑い気温と体中の汗が、いっきに乾いてゆきます。
再び、ふと思ってしまいました。
「片側通行ということは、、、、きっと俺がトンネルを抜けるまで群馬側で列をなしているだろう車は、トンネルに入れないんじゃないだろうか…」
これはヤバい。
トンネルから、のこのこと私がチャリで出てくるのをドライバーが見たら、相当頭にくるに違いない。
彼らに、私が今朝から体感してきた苦しみと挫折の誘惑などに同情などしてくれません。
「おっせぇんだよ!!」
そう思われるに違いない。私がドライバーであれば、絶対にそう思いますから(笑)
私は全長およそ600Mほどのトンネルを、疲れた躰に鞭を打って走ります。
けれども、ふと思ったわけです。
「別にいいじゃない、短気は損気。長い人生、今回の私の我が儘を許してくれまいか…」
そう想うと、ペダルを漕ぐ力も緩やかになり、トンネル内の涼しい空気を心行くままに堪能してしまいました。
チャリを道の端から端へクネクネと走らせ動画を撮ったりしてしまいました(^^;
案の定、トンネルを抜けると車が数台列を作って私が出てくるのを待ってくれていました。
心の中で「すまん、こんな私を許してくれ・・・。君たちに罪は無いし、私にも罪はない。。。」と呟きつつ、とうとう峠を越え、そしてトンネルを抜け、群馬県側に出ることができました。
地図上で移動していたことが、実態として現実として峠道を越えることができた嬉しさ。
そして、ここから一気に下り坂です。
つい「イヤッホォ~!」と、まるでアムロがマチルダさんとの写真を貰って喜んでいるときのような声を、心の中ではなく実際に叫んでいる錯覚になってしまいました。
誰に頼まれたわけでもない、誰に命令されたわけでもない、、ただ自分で決めた道筋をたどってきただけという至極単純な現実に、我を忘れて喜ぶ自分。
下り坂はかなりスピードが出ており、50キロくらい出ていたようです。
ブレーキをかけながらヘアピンカーブを下ってゆきます。
視界の後ろへ流れゆく森の木立と、時折躰を柔らかく差す木漏れ陽が、今までの疲れを全て忘れさせてくれます。
頭の中では、なぜかシューベルトのアヴェ・マリアの旋律が響き渡り、偶然ここはロマンティック街道であることを思い出しました。
ロマンティック街道というからには、フュッセンやシュヴァンガウなどに似た街並みが出てくるのではないかというあり得ない想いを心に抱きながら、現実には焼きもろこしの看板を眺めつつ坂を下ってゆきます。
美味そうなトウモロコシを買って食べたかったのですが、値段が書いてない。
「1本500円とか言われたら、断るに断れないよなぁ。。。」
予算1万円のケチな旅故に、私は食べないという決断をしていました。
稀にロードバイクを一生懸命漕いで坂を上っているサイクリストとすれ違います。
「頑張れ、あともう一息で君達には下り坂が待っている」
と思いがちだけれども、実際は私が想ったことは異なりました。
「へっ、いいだろぉ~下り坂は最高だぜ!!」
という、大変幼稚性溢れる子供じみた想いで彼らを見送り、緩やかにときには激しいほどのカーブを下りってゆきます。
左手に見えた休憩所。
駐車場へスキーで滑りおりロッジ前に止まるような感覚で私は滑り込みます。
「空が、、空が近い。。。こんなにも空が近いとは。。。」
珈琲でも飲んで一服しようと私は建物の近くへ立ち寄ります。
アイスコーヒーが500円。
「う~ん、アイスコーヒーが500円か。。しょうがない、自販機のボスにしよう」
380円をケチり、私は缶コーヒー無糖を選択。
珈琲を飲みながらボーっとしていうと、美味そうなソフトクリームが売っているじゃないですか。
ボディメイクしている私にとっては食べてはいけないもの。
「今日くらいいいでしょ!」
400円弱したけれど、ここで食べたソフトクリームは、美味かった。。。
甘すぎないのですよ。
悩ましいほど雪白で蕩けそうなほど滑らかなソフトクリーム。
それとは裏腹に甘すぎず、控えめで、手に持ったソフトクリームを少し高く掲げて澄み切った蒼い空に重ねます。
控えめな甘さ。
どこかの誰かさんの奥さんに伝えたいほどです。
食べ終えてトイレを済ませると、私は天空に広がる空色と同系色のチャリへ再び乗り、坂道を下ってゆきます。
その先は、ノイシュヴァンシュタイン城ではなく日帰り温泉の建物が散見されました。
静かなせせらぎの沢、、、これがドイツであればドナウの流れなのかもしれません。
この「川」という名称がつかない川は、どうやら先ほど通ってきた菅沼や丸沼から流れ出る川らしい。
しばらく先に進むと、道路の崖に山ぶどうが実ってました。
たまたま追い越し用のスペースで一服していると、停めてあった車のじっちゃんが話しかけてくれて、雑談。
見知らぬ方との雑談が、最高の幸せです。
15分くらいしていたでしょうか。
いろは坂前の小さな公園で老夫婦との雑談。
そして今会話している方との雑談。
本当に嬉しいものです。
お互い笑顔で交わす言葉の数々に、そのときまで凝縮されたお互いの人生の道のりが、表れているような気がしました。
「俺も昔現役のときは、よく川越に仕事で行ったっけなぁ。。。あんな遠いところからチャリンコできたとは、若いっていいねぇ」
いやいやいや、もう若くないっす。
50をそろそろ目前とした年齢っすから、自分は(^^;
このじっちゃんに、ここでは書けない秘密のノウハウを教えてもらい、私はチャリで坂を下ります。
片品を通ると、幼少の頃から行き慣れたスキー場の看板が見えました。
ここは、スノボをする人がいないので、最高のスキー場なのですよ。
ここ片品のスキー場と奧滋賀のスキー場だけが、スキーオンリーだった気がします。
さて、片品高原を抜けると老神温泉を通るのですが、ここで上り坂が現れます。
「また坂かよ、、、、、勘弁してよ。。。。」
もう、このときは坂が現れると胸張って潔くチャリから降りて手押し車で坂を登る癖がついていました。
そんな坂も、再び下り坂となり、予定より相当早く沼田に着いてしまいました。
沼田の駅前で、今日泊まる予定の宿へ電話を入れます。
予約はしていなかったので。。。
天空の城下町というのぼりが至る所に掲げてありました。
そういえば、沼田は真田ゆかりの地でもあったのですね。
記憶では信州の方だったと思ったのですが、、沼田もそうだったのですね。
ここで宿の手配をし、今晩泊まる場所は沼田健康ランド。
もちろん、カプセルルームです。
@3,300円
宿代だけで、昨夜のホテルと合わせて、二泊で合計6,000円弱。
我ながら、約30年前にしていたバックパッカーの記憶が蘇ります。
その経験が、突然私に舞い戻ります。
まあ、宿を予約するだけのことだけれども。。。。
二日目の旅程は、およそ70キロという長くはない距離でしたが、前半の坂道と後半の長い長い下り坂。
夕陽に染まる上州の山中にある街で、私は今夜過ごすことになります。
いったん宿でお風呂に入り、昨日と今日着ていたサイクルジャージと下着を洗濯しようとコインランドリーに入ったのですが、洗濯代が1回800円と高額(^^;
「え、選択って洗濯機回すだけなら200円位(諸外国では相場がそれくらいだたtので)じゃないんすか????」
散々悩んだ挙句、どうせ明日は帰宅して家で洗濯できるし、明日着るパンツもシャツもあることなので、諦めました(苦笑)
浮いたお金で、見つけたファミレスですき焼き定食を奮発し、じっくり食べましたよ。
すき焼き定食にするか、プラス300円出してシャブシャブ食べ放題にするか10分悩みましたけれど、もう30代半ばの頃から、食べ放題はもとはとれないし、かといって元を取ろうとして食べ過ぎて苦しくなるのでやめておこうという経験が蘇り、私はすきやき定食を平らげ、カプセルホテルで就寝に至ります。
二日目も、良い想い出ができました。